アキさんの問題提起

山水舎が本格的に始動する最初のイベントとして「山水会」という勉強会をスタートしました。この勉強会は無作為に多くの方々に参加していただくというものではなく、各県から1名のみ参加していただく、極めてクローズドな会です。

松下村塾のように、世の中を変えてやろうというような大それたことを考えてはおらず、そもそも私自身にそこまで集団を思想として牽引する力もないので、自分はどちらかというと触媒となって人と人を繋ぎ、メンバーにとって生涯の宝となるネットワークを作る活動と考えています。

中小企業のオーナーにとって、利害関係のある地元の同業者との付き合いも大切ですが、直接利害関係のない他県の同業者との付き合いは、より本音で互いの情報を共有することが出来るものです。酒問屋の息子に生まれた私は、酒類流通酒類業界に入って30年以上にわたってお付き合いをしている勉強会の仲間がいます。私自身は流通業界からは離れた立場にいるのですが、彼等とは今でも年に2回の例会を各地で開催し、互いの市場と自社の取組みについてのレポートをそれぞれ1時間程度の時間を使って発表し、率直な意見交換をします。当然のことながら、夜は飲むニュケーションに続きます。

このような付き合いを長い年月続けることによって、とても深い信頼関係が生まれ、その情報交換から得る知見は、様々な仕事の局面で生きてきました。

山水会は、蔵元の会と流通の会の2つの会をスタートさせます。生産と流通は立場が根本的に異なっているので、とりあえずは別々の会として運営してゆくつもりですが、しかし生産と流通が同じ方向を向いて力を合わせることも市場へのアプローチとしては欠かせないことから、両者を合わせた会も折に触れて開催する予定です。

先日、第1回の勉強会を蔵元のメンバー15名で行いました。北から南まで、本格焼酎のメーカーも含む気の置けないメンバーです。

今回は二人のゲストスピーカーをお招きして、「日本酒・本格焼酎の次のステージを考える」という漠然としながらも本質的な問いかけについてお話を伺いました。

ひとりはdancyu副編集長を含む食と酒のメディアの中心で長年大活躍してこられた編集者の神吉佳奈子さん。もうひとりは、酒類業界におけるキャリアは短いながらも大変な勢いで誰もが認める酒類業界のフィクサーとして存在感を示しておられるカワナ・アキさんです。違う立場でそれぞれに現場に立脚した活動をしておられるお二人から、まったく違った視点のお話が聞けるセッション。我ながら素晴らしい人選の第1回になったものだと自画自賛しています。

お二人の話のなかから、今回はカワナ・アキさんのお話について少し触れたいと思います。

アキさんの演題は「日本酒市場の構造的拡張に向けた検証と新仮説 ~伝統産業である日本酒の資本主義との交点~」

かなり難しい演題ですが、アキさんがご自身で取り組んでこられた様々な事業を総括する考え方を示して頂いたと理解しています。

アキさんの問題意識の出発点は伝統産業である日本の酒造りを「守る」という側面と「伸ばす」という側面から両立させるために何をしたら良いだろうというところにあります。そもそも経済的な利益の最大化を目指す資本主義と、利益をあげながらも地元の誇りとして、また文化的価値として次の世代に継承することを重んじる伝統産業は両立するのかという、少し観念的な問いかけからアキさんの話は始まりました。

資本主義と伝統を比較しながら論ずるところがアキさんらしさなのですが、私の理解としては、市場の異なる立場のプレイヤーがそれぞれ自主的・独立的に行動するのではなく、お互いの立場と利益を理解・共有しながら共働することによって、有機的な変化が生まれてゆく、という考え方と捉えました。

アキさんは「若手の夜明け」「酒屋大賞」「Prime Sake」「Sake Leaders Summit」「混祭」というとてもインパクトの強い事業を展開してこられましたが、そこには行政・酒蔵・流通・消費者という市場のプレイヤーに徐々に関係性を持たせ、市場拡大という方向に向けた流れを作ってゆくという考え方があると言われます。

私がこの話のなかでとても印象に残ったのは、これらの事業がすべて成功したわけではなく、失敗・撤退という事業もあること、そしてそれにアキさんがめげていないことです。むしろ失敗を次のステップアップの教材にしている様子がとても感じられて、たのもしく思えました。

さて、そんなトライ&エラーの中かからアキさんが導いた4つの構造的論点の話が続きます。なかなかチャレンジングで私はとても好感を持ちました。

  1. 市場開拓のキープレーヤーとして流通のマージンが低すぎる。業務用と一般小売の二重価格を設定することなどによって小売価格の跛行性を広げ、より柔軟で積極的な市場開拓が流通によって推進される体制を作る。
  2. スペックで値段が決まることへの違和感。精米歩合やアルコール添加など製造スペックで価値が決まる画一的なマーケティングから、本来の酒質が問われる価値づけがジャーナリズムを含む複数のプレイヤーから提案されることが大切。
  3. 日本酒のスタンダードは日本からの発信でなくてはならない。海外の教育機関が日本酒のスタンダードを論ずるのはおかしい。ルールメーキングは日本が中心となって行い、それに海外を巻き込むという形が求められる。
  4. 世界に約70カ所の酒蔵が生まれている現在、海外におけるGIの呼称としてJapanese Sakeは不適当である。Californian SakeやItalian Sakeと同列のカテゴリーとしてGIが位置付けられるよりも、「Nihonshu」という日本酒独自の名称を世界に広める活動を行うべき。

それぞれに考えさせられる課題ですし、私も共感するところが多いポイントです。

今ある制度や慣習を変えるには大きなエネルギーが必要です。既存の体制を批判するのは簡単ですが、それは対立を招くだけ。そうではなく、市場のそれぞれのレイヤーの理解と関係性のなかかからオピニオンを形成することによって新しい世界が生まれてくる未来を私たちは模索していかなくてはなりません。

60代の私が若い力に触発されて、心に小さな火がともったような心持ちがしました。