Raw Wine で感じたこと

フランス人マスターオブワインのイザベル・レジュロムさんが設立された Raw Wine という世界的な自然派ワインの展示会があります。

2024年に初めて東京の天王洲にある寺田倉庫で開催されたのですが、その展示会に日本を代表する自然派のメーカー4社(寺田本家・仁井田本家・木戸泉酒造・秋鹿酒造)が参加されたと聞いて非常に興味を持ちました。

自然派ワインへの消費者の関心の強さについては、海外の展示会でも強く感じましたし、国内の飲食店にも自然派ワインにフォーカスした店が確実に増えているという実感をみなさんも持たれていると思います。そういった自然派ワインを中心に置いておられるお店に自然派の日本酒が置かれるというシチュエーションが実に自然に感じたのです。

これまで、この4メーカーに代表される自然派の酒は、一部の熱狂的な信者に支持をされるものの、その野太い酸味と複雑味ゆえになかなかメジャーな市場においての競争力が足りず、その知名度に見合った売り上げを達し得ていないという印象がありました。

しかし一方で、例えばジョージアのオレンジワインを飲む消費層には、その酒造りのコンセプトも味わいもまったく違和感なく受け入れてもらえるだろうという確信がありました。

これは面白い、と思ってすぐにRaw Wine事務局とコンタクトをとって様子を聞いてみました。ちょうどRaw Wine側も日本の自然派酒類をもう少し増やしたいと思っておられたことから、良い協力関係が生まれ、2年目からはイベントのお手伝いをさせていただくようになりました。

その後、2年目・3年目とお付き合いが続いています。

Raw Wineの一般チケットは通常9,000円します。自然派のワインは通常販売されている日常ワインと比較すると高価な商品が多いため、その高価なワインが飲み放題であると思えば9,000円という価格もリーズナブルなのかなと思ったり、円安の状況を考えれば仕方ないのかなと思ったり。

いずれにしても、こんなに高価なイベントに来る人っていったいどんな人なのだろうと興味津々でベントの当日を迎えました。

会場は平和島の流通センター。お世辞にもおしゃれとは言えない会場なので、不安は募る一方。こんな高いお金を払って、こんな粗末で無味乾燥な展示会場に来る人がいるのだろうか、というのが正直な気持ちでした。

開場は午前10時なのですが、早くからたくさんの人が並び、開場時には長い入場待ちの列ができていました。

びっくりです。

市場があるのだと、強く感じました。

日本酒のイベントに行くと、必ず知った顔に出会い、挨拶をしているだけであっという間に1時間くらいが経ってしまうのが普通なのですが、自然派ワインのイベントに来られている方々は人種が違います。

もちろん感度の高いメディアやライターの方は来られているのですが、いわゆる日本酒ファンや日本酒メーカーなど、知っている方はほとんどおられません。

これがまず良い。

日本酒イベントに集まる日本酒ファンの方々は、イベントを楽しみ、蔵元との交流を楽しみ、酒を飲んで幸せになって帰っていく方々であり、業界にとっては有難い方々であることは間違いないのですが、問題はそういった方々の割合が高すぎて新しい需要に繋がらないということです。

一方で、自然派ワインのファンの方々は、いつも日本酒を飲んでいる方ではないので、日本酒のことは知らない方が多い。本当に全然ご存知ない方もたくさんおられます。

ですから、有名銘柄とかブランドにはあまり興味がなく、一期一会の出会いに集中して、しっかりとテイスティングをされます。

そして、日本酒イベントでとかく話題になる精米歩合や酵母の種類など、製造のスペックにも基本的に興味がありません。

それよりも酒そのものの個性と味わい、そしてその個性がその製造者のポリシーとどのようにシンクロしているのかという点に興味を持たれます。

酒の評価についても、かなり異なった見方をされる方が多いと思います。

日本酒の誉め言葉として良く使われる「軽快でキレが良く、フルーティー」という表現がありますが、一方で、酒質をけなす言葉として良く使われる「重くて、ざらついて、キレが悪い」というような表現が評価として逆転してしまうことが良くあります。

強い酸味を「鮮やかで力強い」と評価し、キレの悪さを「余韻が長い」と評価し、重くてざらついてという酒質を「複雑で多層的な味わい」と評価する。

こうなると、自然派の日本酒は俄然強みを発揮し始めます。

そして、そのような酒質がペアリングのコンテクストで語られるようになると、フルーティーで軽快な日本酒は、極めてその存在感を失ってしまいます。

これは日本酒に新しい世界を拓く扉であるように私は思います。

何がおいしくて、何がおいしくない。

何が良くて、何が良くない。

これらをはかる基準が、これまでの日本酒の業界はあまりに少な過ぎました。

特定名称と全国新酒鑑評会ではかる製造技術のレベル評価にたより過ぎていて、多様な嗜好を持つ人々がどのように感じるのか、ということに真摯な目を向けずに大衆迎合をつづけてきました。

ペアリングについても本当に深い議論がされてきたのでしょうか。

日本酒の価値というものを、もう一度考え直す時代が来ているのではないかと、このイベントを通して感じています。