アメリカで焼酎を売ること

大学を1年休学してボストンに留学した時、お付き合いしていたガールフレンドがワシントンDCに住んでいたので、家に遊びに行ったのが43年前。それ以来のワシントン訪問です。

有名な美術館や博物館、ホワイトハウスやリンカーンの像など、有名な観光地以外の街の景色は、さすがに殆ど記憶になく、初めて行く街のような気がしました。

さて、今回のミッションは本格焼酎・泡盛のアメリカ東海岸のバーシーンでのプロモーション。

いわゆる甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)と違って、土着の本格焼酎・泡盛は水やお湯で割って麦や芋など原料の風味を楽しみ、食事と一緒に飲むのが伝統的です。最近はソーダ割りがかなり主流になってきましたが、地元では今でもお湯割りが根強く愛されています。

日本の酒文化は日本酒を中心に形成されてきたので、蒸留酒の文化が室町時代の末期に日本に届いた時にも、蒸留酒としての独自の文化を形成するというよりも、日本酒文化と混ざり合った焼酎文化を形成したと言えるでしょう。「割って度数を下げる」、「温める」、「食事と一緒に飲む」という3つの焼酎文化ポイントは日本のユニークな飲用スタイルで、世界のスピリッツ文化とは根本的に違います。

ウィスキー、ブランディ―、白酒、ウォッカ、ジン等のスピリッツは、温めて飲むことはまずありませんし、食中酒としてペアリングを楽しむこともありません。割って飲むこともありません。ウィスキーソーダという飲み方がありますが、これはウィスキーを割って飲むという感覚よりはカクテルを楽しんでいるという感覚に近いと思います。中国の白酒やロシアのウォッカは食事中に供されますが、度数の高い酒をショットグラスに入れて一気飲みするという飲用スタイルは「食事とのペアリングを楽しむ」というよりは、友情を育むための一気飲みという「酔うための飲み方」という方が近いと思われます。

本格焼酎・泡盛は日本酒をベースとした酒文化のなかで、その影響を色濃く受けながら形成され、世界のスピリッツとは異なるユニークな飲用スタイルを形作ったのです。

日本食文化の浸透とともに日本酒は各国で注目を集め、日本酒輸出は毎年2桁を超える勢いで伸びています。

焼酎もそれに続けと輸出プロモーションを行ってきましたが、手ごたえがない。

日本の飲用スタイルをそのまま海外に持って行っても、「なんで割って飲むの?」「なんで食事と一緒に飲むの?」「それなら日本酒を飲んでいればいいじゃない」と一蹴されことが多く、なかなか日本の焼酎文化を理解してもらうことができずにいました。

そこで、焼酎業界は作戦を変えることにしました。

「郷に入れば郷に従え」の教訓にならい、海外では海外で通じる言語で焼酎を伝えることにしたのです。

世界におけるスピリッツの共通言語は「カクテル」です。世界のスピリッツ市場規模は、ワイン市場規模を上回り、莫大な量のスピリッツが世界中で消費されています。そのなかでそのままストレートで飲まれるスピリッツはウィスキーやブランディ―など樫樽貯蔵によって付加価値をつけたものが主流ながら全体の中で占める割合は30%程度といわれ、多くのスピリッツはカクテルベースとして消費されています。

このカテゴリーで本格焼酎・泡盛も勝負してゆこうということになったのです。

スピリッツとして焼酎をアピールするとなると、ターゲットとする市場がまるで変わってきます。これまで居酒屋や日本食料理店に向かってプロモーションを展開していたのを、バーテンダー・ミクソロジストにターゲットを変更しなくてはなりません。

最初は「本当にこれでいいのかよ」と半信半疑の船出でした。

でも、結果的にはこれまでとはまったく異なる強い手ごたえを感じることになりました。

本格焼酎・泡盛がカクテルシーンで受け入れられた背景には、欧米におけるカクテル文化の変化があったということができます。2000年を超えてから、ニューヨークやロンドンを中心として「カクテル・ルネッサンス」とも言われる大きな変化が訪れました。

その大きな変化の象徴とも言えるのがメキシコの「メスカル」です。メキシコ土着で強烈な風味を持つメスカルがカクテルシーンに大きな影響をもたらし、「新しい風味」「クラフト性」「オリジナリティ」などの要素が、これまでのカクテルのあり方自体を大きく変化させ、それまでスピリッツやリキュールを混ぜるだけだったバーテンダーから、シェフのように「調理をする」ミクソロジストと呼ばれる役割が生まれてきました。

減アルコール化のトレンドも伴って、カクテルも「安いものをたくさん飲む」よりも「極上の一杯を楽しむ」ように変化し、カクテル単価も高くなってきました。

「新しい風味のクラフトスピリッツ」を求める市場の声に、本格焼酎・泡盛は絶好のタイミングで応えることができる環境にあるのです。

まさに、「やるなら今でしょ!」というタイミングが訪れていると言っていいでしょう。

今回の訪米は、Tales on Tourというバーテンダー・ミクソロジスト向けの教育・ネットワーキングイベントに参加することが目的でした。私も海外のバーテンダーの本気に向き合うのは初めての経験です。

イベントの一環で、ワシントンDCの有名なバー「Allegory」を貸し切り、日本から招聘したバーテンダーのゲストシフトとしてカウンターに立ってもらい、3種類の焼酎カクテルを提供しました。

本当に驚いたのですが、夜9時から深夜0時まで3時間のゲストシフトの間、バーの外には終始長蛇の列ができ、バーのなかは常に満員の盛況となりました。客のほとんどはバーテンダーや飲食関係のプロです。

海外で受け入れられやすい麦・芋・黒糖焼酎をベースにしたカクテルでしたが、お世辞でしょうが「今まで飲んだカクテルのなかで一番おいしい」などという声まで聞かれたのは、本当に嬉しい限りでした。

今回のゲストシフトの成功の最大要因は著名なバーを会場として確保することができたことだと思います。焼酎の知名度がまだそこまで高いとは思っていません。でも、これだけ多くのバーテンダーたちが本格焼酎・泡盛に興味を持って訪れてくれたという事実は、これからのプロモーションにおける大きな自信になったことは間違いありません。

はじめの一歩とは大切。

一歩を踏み出せばなにか新しいことが始まります。