老舗のちから

私はいわゆる老舗と呼ばれるお店が好きです。

特に下町の老舗が好き。

東京には、森ビルや三井不動産がヒルズやミッドタウンといったアイコニックな大型都市開発を始めて以降、雨後の筍のように新しいビルが建設されてきました。

それぞれの施設は、競って先端のお洒落なお店や本格派の飲食店の出店を募り、素敵な空間を演出しているので、まるでマンハッタンの中心にいるような気分になり、自己イメージがちょっと上がるのを感じます。

でも、そのような大型商業施設にあるお店は、少し高い、そして個性が拡散してしまってどれが何だかわからなくなってきました。超有名店といわれるお店があまりに沢山あり過ぎて、どれに行けばいいのかわからない。それぞれに恐らく満足感とおしゃれ感はあるのでしょうが、このお店とあのお店の違いは何なのか、どちらに行った方が、より満足度が高いのか、正直なところ私にはついてゆけなくなりました。

まぁ、これは年寄りということなのかもしれません。

きっとそうなのだと思います。

いずれにせよ、そういった新しい商業施設にできた「素敵なお店」に自分から好んで行くことはなくなりました。

とはいえ、Foodieとまでは言わずとも人並み以上に食に興味がある身としては、おいしい食べ物と切り離した生活は考えられません。

そんな私が一番安心して楽しめるお店が、いわゆる老舗です。特に下町の老舗。

B級のお店から一流店まで、老舗には追随を許さぬ価値があると思います。

お店の入り口にかかった暖簾の風情。

夏の暑い日には、開店前の店先に打ち水をするおもてなしの心。

お店の仲居さんたちの行き届いた目配り。こちらがちょっと顔を上げて目を合わせると、さりげなく反応してくれる手早さ。

お帳場に着物姿の年配女性が座っている風情。

帰るときに調理場から聞こえる「ありがとうございます」という声。

そこには、古き良き日本の文化が宿っているように感じます。

ノスタルジーなのでしょうか。それでもいい。

私はそのような人間臭い空間で、料理人が心を込めて作る料理を楽しく食べたいのです。

お蕎麦屋さんでも、とんかつ屋さんでも、居酒屋でも、洋食屋さんでも、中華料理屋さんでも、お寿司屋さんでも。カレー屋さんだっていい。

老舗は時代を生き残ってきたお店です。

時代を生き残るということは、決して楽なことではありません。特に飲食店の世界では、10年続くのさえ大変な努力が必要と言われています。

そんな老舗がどうして生き残ってきたのか、どのような価値にお客様は変わらずに対価を惜しまず支払ってきたのか。

そんなことを考え、感じながら時間を過ごす感覚は、新しい大型の商業施設ではなかなか味わうことができません。当然と言えば当然ですね。

ですから、私は自分のお財布からお金を出すのだとしたら、老舗に行きたい。

そしてそのお店で何十年も使っているお酒を味わいたいのです。

それは、私にとってお酒の力をはかる大切なものさしのひとつです。